小さくなった義之
第2話 発覚



「で、これは一体どういうことなのかな」
義之が子供になるという事件が起きてから二日後の午後。
義之宅には、音姫から事件の顛末を聞きつけた友人達が訪問してきていた。
「ええと、ゴメンね、弟くん。ついうっかりみんなに弟くんのことを話しちゃって……」
音姫が商店街に買い物に出かけたのは偶然でしかなかった。
だが、その偶然出かけた商店街で、音姫は運悪く友人達と遭遇した。
元々音姫は、隠し事をするのがあまり得意でない。
そんな音姫が、好奇心のカタマリとも言える友人達に出くわしてしまった時点で、結果は見えていた。
当然のことながら、あっさりと義之のことが知られてしまい、現在の状況に至るというわけだ。
「これが義之? うわ、マジかよ!」
「小さくなった義之……かわいい……」
「フフ……これは色々と調べてみないといけないわね」
「本当に小さくなっちゃったんだねぇ、義之くん」
「ねぇねぇ、ちょっと触ってみてもいい?」
「これが桜内なのか……普段と違ってかわいいものだな」
「ふーむ、これは非常に興味深い現象だな」
子供になった義之を見て、各々が感想を述べていく。
感想の内容も様々で、驚いたり、素直な感想を言ってみたり、好奇心から義之に質問をしてみたりしていた。
「音姉、どうしてコイツらを連れてきたんだよ」
「お姉ちゃんも努力したんだよ? 仕方がなかったんだよ〜」
「板橋先輩や小恋先輩はともかく、雪村先輩や花咲先輩を騙し続けるなんてお姉ちゃんには無理ですよ、兄さん」
実際、音姫は音姫なりに、必死に義之のことを悟られないように努力はしていた。
していた……のだが。
隠し事が上手くない音姫が、杏や茜のような鋭い人間に嘘をつき続けるなど所詮不可能なのだ。
会話中のふとしたキッカケから嘘がほころび始め、いつの間にか真相は完全に暴かれてしまった。
「バレてしまったものは仕方がない。こうなった以上、お前らにも協力してもらうからな」
過ぎてしまったことをこれ以上どうこう言っても仕方がない。
そう判断した義之は、知られてしまったことを逆手にとり、友人達にも協力してもらうことにした。
「任せとけって! 俺たち友達だろ?」
『出来ることならお前とは友達の縁を切りたいよ』
「義之が困ってるんだもの。私は協力するよ!」
『ありがとう、小恋。お前だけが頼りだよ』
「それで……ショタ体型になれた感想はどう? 義之」
『ショタとか言うな、ショタとか』
「ウフフ、お姉さんがイイことしてあげましょうかぁ?」
『結構です、いえ勘弁してください』
「そ〜れ、プニプニ、プニプニ……あはは、柔らか〜い」
『すみません、プニプニしないでください』
「随分とかわいくなったものだな。普段もこれぐらいかわいげがあれば良いのだが」
『かわいくなくて悪かったな』
「なんと不可思議な現象なのだ……これは解剖して実験してみなければ……」
『お願いです、やめてください』
各々が、好奇心満載な顔で義之に話しかけていく。
そんな友人達の自由な発言を聞いた義之の心の声が聞こえてきたような気がするのは勘違いではないかもしれない。
そして、義之は改めて、知られてはいけない者達に知られてしまったのだと感じていた。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
それはおそらく、義之と友人達の付き合いの長さによるものだろう。
「とりあえず、今日のところはもうお開きにしようぜ。なにか思いついたらまた来てくれ」
これ以上混乱する前に場を納めたいと考えた義之が、友人達にそう提案する。
義之はともかく、音姫と由夢にあまり迷惑をかけたくないと考えたのか、友人達も義之の発言に同意した。
「そうだな。今日のところはこれで帰るとするか。またからかいに来るからな、義之!」
『二度と来ないでくれ』
「うん、今日はこれで帰るね。なにか思いついたら絶対に来るからね!」
『うんうん、小恋だけが俺の癒しだよ』
「幼児体型同士、いつでも悩みは聞くわよ」
『幼児体型言うな』
「なにか悩みがあるならお姉さんに言うのよぉ」
『あなたにだけは相談しません、絶対に』
「またホッペをプニプニさせてね〜」
『できれば勘弁してください』
「美夏は子供の姿の貴様の方がかわいくて良いと思うぞ」
『俺はこんな姿は嫌です』
「俺に解剖されたくなったらいつでも来るがいい」
『絶対行きません』
以上、義之の心の声搭載でお送りいたしました。
どこからかそんなアナウンスが聞こえてきそうな会話シーンが展開された。
そして、相変わらずの自由な発言を帰りの挨拶代わりにして、友人達は義之宅を後にし帰っていった。
騒がしい友人達が帰ってしまったことで、義之宅には再び静けさが取り戻された。
「みんなが揃うと賑やかでいいねぇ」
「騒がしいだけな気がするけどな」
実際、友人達と関わっていると、騒ぎすぎとも言えるほど賑やかになる。
だが、そんな雰囲気もいいかもしれないと思っている自分がいるのも事実には違いなかった。
「兄さん、そう言いながら顔が笑ってますよ」
「ん。そうかな?」
自分の顔のことなのだから、気づいていないわけはなかった。
ただ、素直にそのことを認めるのは少し恥ずかしかったので、 義之はあえて気付かないふりをして笑っていた。
「はは、そういうことにしておいてやるよ」
「全く、兄さんは素直じゃないなぁ」
「素直じゃないのはお互い様だろ?」
「や、私は素直で良い子ですから」
「はは、言ってろ」
そんな二人のやりとりを台所から聞いていた音姫は、微笑ましい二人の様子を見て静かに微笑んだ。
それはさながら、二人の子供の様子を微笑ましい笑顔で見守る母親のようにも見えた。
「うふふ、二人とも仲がいいなぁ」
普段通りの微笑ましい日常の風景。
一部普段とは違う状況ではあったが、こんな日常ができるだけ長く続くといいなと三人は思うのだった。


第3話へ続く



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