小さくなった義之
第17話 夏祭り その5



「チクショー! あと少しだったのになぁ」
義之が、あと少しでパーフェクトという結果を残したストラックアウトの結果を思い出し、 残念そうにそう口にした。
「あと一枚でパーフェクトだったのにねぇ」
そう、義之は、あと一枚射抜けばパーフェクトというところで惜しくも外してしまったのだ。
周りからはよくやったと褒められはしたが、最後に外してしまった自分自身が許せなかった。
「でも、兄さんにしては頑張った方だとおもいますよ」
実際、本人は悔しがってはいるが、十分誇れる結果だと言えるだろう。
義之自身もそれは分かっていたが、それでも悔しさというものは感じてしまうのだ。
「おいおい、俺の実力はまだまだあんなもんじゃないぜ?」
「はいはい、そういうことにしておいてあげますよ」
「うん、弟くんは十分頑張ったと思うよ」
音姫と由夢も、言葉こそ違えど、頑張った義之にねぎらいの言葉をかけた。
いつまでも悔やんでいても始まらないということで、義之も、気持ちを切り替えることにした。
「さて、次はどこに行くよ?」
「そろそろ盆踊りが始まる時間だね」
「盆踊りですか。夏祭りっぽくていいですね」
「よっしゃ。そんじゃ盆踊りにでも行ってみるか」
そろそろ夏祭りも終わりに近づき、盆踊りが始まる時間になっていた。
夏祭りの風物詩ということで、三人の意見は、盆踊りに参加することに決まった。


義之の思いがけない奮闘の余韻を残しながら、三人は、盆踊りの会場にやってきていた。
「うーん、やってるねぇ」
「盆踊りなんて久しぶりだな」
「ちゃんと踊れるかなぁ」
人でごった返す会場からは、大きな太鼓の音がこだましている。
さらに、盆踊り独特な音楽が、周囲の空気を盛り上げている。
そんな音楽にあわせて、太鼓を中心に円状に並んだ人達が、リズムにあわせて盆踊りを踊っていた。
「俺達も混ざってこようぜ」
「うん。行こう、二人とも」
「なんだか緊張しますね」
各々が思うところはあったが、来たからには楽しまなければ損だろう。
三人は、盆踊りをしている人達の輪の中に入り込み、一緒に盆踊りを踊り始める。
「ふふ、一緒に踊ろう? 弟くん」
まずは、音姫が義之を踊りに誘う。
義之も、その誘いを快く快諾する。
「はは、なんだか恥ずかしいな」
「私は嬉しいよ? 弟くんとこうやって踊れるのって」
それは、音姫の素直な感情に違いなかった。
大切な家族と過ごす時間を、心底楽しんでいるように感じられた。
「兄さん。お姉ちゃんとばかり踊っていないで、私とも踊ってくださいね」
しばらく二人が踊っていると、今度は由夢が義之を誘う。
再び義之は、由夢の誘いを快く快諾する。
「ちょっと恥ずかしいけど、たまにはこんなのもいいな」
「ふふ、私もそう思います」
少し恥ずかしそうに、二人はゆっくりと踊り続ける。
仲の良い二人の兄妹が踊るその光景は、見ていてとても微笑ましいものだと感じられた。
「さぁ、今度は三人で踊ろう」
二人が踊る様子を見ていた音姫が、ふいに義之と由夢の手を取る。
そして、義之と由夢も、静かに音姫の手を取り返す。
三人は、ゆったりとした時間の中、静かに踊りを楽しみ続ける。
「ふふ、楽しいねぇ、二人とも」
「ええ、たまにはこんなのもいいですね」
「はは、いつまでもこんな時間が続けばいいのにな」
そうして三人は踊り続ける。
この楽しい時間が永遠に続けばいいのにと願いながら。


『パァァァンッ』
「うわぁ。花火だよ、二人とも! 綺麗だねぇ」
「祭りの最後はやっぱりこれだよなぁ」
「ええ、とても綺麗で幻想的ですね……」
盆踊りも終わりに近づいた頃。
会場の上空には、綺麗な花火が花を咲かせていた。
色とりどりの花火が舞い上がるその幻想的な光景を、三人はしばし堪能する。
「さて、それじゃそろそろ帰るか?」
いつまででも見ていたい光景には違いなかった。
しかし、残念ながら時間というものは有限なのだ。
時間が大分遅くなってきていたことも考慮して、そう義之が提案する。
「うん、そうだね。楽しい時間は本当にあっという間だなぁ」
三人の代表意見を音姫が口にする。
実際、三人とも、楽しい時間の短さを改めて実感していた。
「また来ましょうね。兄さん、お姉ちゃん」
「ああ、絶対にまた来ような」
「うん、また一緒に遊ぼうね」
次に来るのは来年になるか再来年になるか、あるいはもっと先になるのかもしれない。
一つ言えることは、この三人の関係は何年経っても変わらないだろう。
大切な家族としての三人の絆が崩壊することなどあるはずがないのだ。
「さて、それじゃ帰るか」
「うん、弟くん」
「ええ、兄さん」
三人は、楽しかった祭りに別れを告げ、三人のホームへと帰っていく。
帰るときも、三人は終始笑顔を保っていた。
夏休みも中盤を迎え、様々な思い出が増えたに違いない。
そんな思い出を胸に、三人は帰路へとつく。
大切な家族と一緒に過ごせる憩いの場所へと向かって。


第18話へ続く



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