義之、前世について考える



最近、自分の前世について考えることがある。
俺の前世。
まあおそらく、考えるのも空しいような存在だったに違いない。
「兄さん」
などと思っていると、由夢が部屋の扉を開けた。
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
「おう、いいぞ。この兄になんでも言ってみなさい」
可愛い妹の頼みだ。
お兄さんなんだってやっちゃうぞ。
「ありがと、兄さん。それじゃ、ちょっとやって欲しいことがあるんだけど」
俺にやって欲しいことか。
何を懇願されようと、兄の威厳にかけて、無事に任務を遂行してみせようぞ。
さあこい、由夢よ。
この兄になんでも言ってみるがよい!
「お手!」
「ワン!」
あれ?
「お座り!」
「ワン!」
身体が勝手に
「伏せ!」
「ワン!」
動いちゃうよ。
って言ってる場合か。
身体の意志とは関係なしに、俺はなぜか由夢の言葉通りの行動を取ってしまった。
何かの呪いか? これは。
「あはは、ありがと、兄さん」
「……??」
何やら満足そうな笑顔を見せながら、由夢は部屋を出て行った。
うーむ、なんのこっちゃ。
などと思っていると、下の階から、
『試してきたよ、お姉ちゃん』
『どうだった? 由夢ちゃん』
『うん、お姉ちゃんの言った通り、私の言葉通りの芸をしてくれたよ』
『ね? 言った通りでしょう?』
『うん。あまりに抵抗なくやってくれたからちょっと驚いちゃった』
『きっと弟くんの前世は、私達に飼われていた犬さんなんだよ』
『あはは、そうかもしれないね』
という感じの会話が聞こえてきた。
うーむ、まさか本当に、俺の前世は由夢と音姉の犬だったのか?
さっきの由夢とのやりとりを思い返すと、あながち冗談にも聞こえないのが恐ろしいところだ。
由夢と音姉の犬……。
由夢と音姉の……。

『もう、義之。そんなに暴れちゃダメだよ?』
『ワン!』
『ほら、義之。身体を洗うからじっとしててね』
『キャンッ!』
『キャッ!? ……もう、義之は本当にシャンプーが苦手だよね』
『仕方ないよ、由夢ちゃん。犬さんはシャンプーが苦手なものらしいから』
『ワンワン!』
『はいはい、ちょっと我慢してね、義之。お姉ちゃん、そっちを抑えてね。私はこっちを抑えるから』
『分かったよ、由夢ちゃん』
『それじゃ……』
『覚悟してね、義之♪』
『ワンッ!?』

…………ぐはっ!!
想像したら鼻血が出てきちゃったよ。
由夢と音姉にこんなことをしてもらえるなら、犬になるのも悪くないというか大歓迎だな。
…………。
待てよ?
ということは、だ。
犬にさえなれれば、夢の朝倉姉妹との犬プレイが出来るということか?
…………ぐはっ!!
いかんいかん、想像したらまた鼻血が出てきちゃったよ。
……ん?
こんなところに、都合よく犬の着ぐるみが……?
こ、これはまさか……。
犬になれば朝倉姉妹と犬プレイ→そのために犬になりたい→着ぐるみで犬を演じれば万事OK!?
おお、我ながらなんてナイスアイデアなんだ!
よし、そうと決まれば、今日の夜に早速実践だぜ!
待っててくれよ! 我が愛しき姉妹達よ!




「きゃあああ!? お、弟くん!? い、一体何をしてるの!?」
「に、兄さん!? な、なんで兄さんが朝倉家のお風呂に入ってくるんですか!?」
「ワンワン!(さあ由夢に音姉! 犬となった俺を可愛がってくれ! と言っているらしい)」
「な、な、な……」
「ワンワン!(どうしたんだ? 二人とも。さあ、遠慮しなくてもいいんだよ!  好きなだけ俺を可愛がってくれ! と言っているらしい)」
「弟くんの……」
「兄さんの……」
「ワン?(え? まさか、この展開は……? と言っているらしい)」
「へんたああああい!!」
「ワオオオンッ!?(ぐはあああっ!? と叫んでいるらしい)」




その夜、俺はめでたく空の星の一員となった。
結論。
人間、そう簡単に美味しい思いなど出来はしないということだ。
めでたしめでたし。
……哀れな俺に合掌。


終わり



もどりますか?