ヤンデレ狂想曲



「弟くん」
「お、音姉!?」
「どうしてそんなに驚くのかな? 弟くん」
「い、いきなり声をかけられたら誰だって驚くだろ!」
嘘だった。
俺が驚いたのは、単純に音姉が怖かったからに他ならない。
「嘘だよ!!」
「な、なんで嘘だって思うんだよ」
音姉に嘘を見破られたことに動揺して、上手く言葉が出てこない。
「弟くんのことなら私、なんでもわかるんだよ?」
「い、意味がわかんないよ」
俺の動揺は、少しずつ大きくなっていく。
「こんなにも弟くんのことが好きなのに! どうしてわかってくれないの!?」
「俺には他に好きな人がいるんだからしょうがないだろ!」
俺は、最愛の人である由夢のことを思い浮かべていた。
「由夢ちゃんね」
「ッ!?」
恐ろしいほど冷たい表情で由夢の名前を口にした音姉に、俺はかつてない恐怖を覚えた。
「ゆ、由夢は関係ない!」
必死で音姉に叫びかけたが、今の俺の言葉が音姉に届くことはなかった。
「うふふふふ……そう、由夢ちゃんか」
「ゆ、由夢には絶対に手を出すなよ!?」
「そっか、由夢ちゃんか」
俺の言葉など聞こえていないかのように、音姉が次の言葉を口にする。
「……あの泥棒猫が」
そう言った音姉の表情は、冷たく憎悪に満ちたものだった。
「うふふふ……せっかくお情けで弟くんと会わせてあげてるのに……これはお仕置きが必要かなぁ」
俺はただ、音姉の全てに恐怖していた。
由夢と逃げよう。
音姉がいない、どこか遠くの場所へ。
……逃げられたら、の話だけど。


終わり



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