ぷ○ぷ○に強くなろう


※このSSは、某パズルゲームの『ぷよ○よ』を知っていることを前提として作成されています。あらかじめ、ご了承ください。


「どうだ!! まぐれで出た5連鎖!!」
兄の言葉どうり、ぷ○ぷ○独特の掛け声と共に、相手の頭上にいくつかの赤い『じゃ○ぷよ』の姿が浮かび上がる。
…それにしても、自分で『まぐれ』だと堂々と叫ぶその根性。ぜひとも見習いたいものである。
「…あまい。こちらは7連鎖だよ」
叫ぶ兄とは対照的に、落ち着き払った様子で、冷静に事(こと)を運んでいく千影。
…もっとも、本人に自覚はないのだが。
「なにぃぃぃっ!?」
断末魔の兄の叫び声とほぼ同時に、ドスンッという濁音が響き渡り、兄の方に、大量の『じゃま○よ』が降り注ぐ。
「…フッ」
まるで、兄をあざ笑うかのように、不敵な笑みを浮かべる千影。
今度は、冷静に状況を分析したときとは違い、狙ってやったのだろう。
「あ、今、笑いやがったな!?」
「気のせいだよ」
断じて、気のせいではない。
…のだが、あくまで千影は、白(しら)を切りとおすつもりらしい。
兄も、千影の雰囲気から考えていることを悟ったのか、必要以上の追求はしなかった。
「…また、負けた」
結局兄は、余裕で千影に負けた。
…なぜかは知らないが、千影は、俗に言う『パズルゲーム』などと呼ばれる頭脳形のゲームに、異常とも言えるほどに強い。
常に取り乱さない冷静さがあるからなのか、ただ単に、頭が良いだけなのかは、いまだにはっきりしていないのだが。
「…これで、0勝99敗…」
…情けなくも、これが、兄と千影の実力の差である。
理屈抜きで、とにかく強い。それが、千影という少女だった。
「悪いけど、兄くんでは、私には勝てないよ」
千影の言葉は、皮肉でも何でもない。ただ、千影が正直すぎるだけである。
…その持ち前の正直さが、千影の良いところなのだが。
こういう状況では、ただの逆効果にしかならない。
「つ、次こそ必ず勝ってやる!!」
どうやら、千影の正直すぎる発言が、兄の負けず嫌い精神に火をつけてしまったらしい。
「そういうのを…俗に、『無駄な努力』と言うのだろうね」
兄に、自覚のない最後の追い討ちをかけた千影は、何事もなかったかのような無表情で、自分の部屋へと戻って行った。
…とはいえ、すべてが的を得ている発言なため、いまいち反論しがたいのも事実だった。


千影が出て行って数秒後。
何の前触れもなく、兄は、他の妹達に協力してもらおうという考えにたどり着いた。
「…こ、こういうときは、頭の良さそうな鈴凛に聞くのが一番だな」
少し、動揺しているように見えなくもない。…いや、確実に動揺している兄だった。




「…というわけで、僕にぷ○ぷ○で強くなるための秘訣を教えてくれ」
…相変わらず、順序というものを考えようとしない男である。
「無理」
「…はい?」
頼みの綱である鈴凛にあっさりと断られてしまい、思わず、裏声をあげてしまう兄。
…千影以外に、ぷ○ぷ○系のゲームの強そうなのは、鈴凛ぐらいのものだろう。
その鈴凛に協力を断られたのだから、動揺してしまうのも無理のないことなのだが。
「私、ゲームは専門外だから」
確かに、機械に詳しい人間すべてに、『ゲーム好き』や『ゲームが得意』などという条件が当てはまるわけではない。
「…マジで?」
「マジで」
鈴凛も、千影に勝るとも劣らない正直者らしい。
…もちろん、本人達に悪気はないのだが。
その正直すぎる性格のせいで、人間関係に支障をきたしてしまうこともしばしばある。
それでも、相手にどんなことを言われ、思われようとも、彼女達が、自分の性格を変えようと思うことはない。
なぜなら、兄に『僕は、ありのままのキミ達が好きだ』と言われ続けてきたから。
「資金援助してあげるからさぁ」
「…アニキ、私のことを何だと思ってる?」
「守銭奴」

みしっ

何のためらいもなく兄の口から放たれた『守銭奴』という言葉に待っていた『罰』は、鈴凛による『顔面鉄球攻撃』だった。
…というわけで、兄の顔面には、鈴凛が投げた鉄球がめり込んでいる。
「…どっから取り出した、この鉄球…」
世の中には、まだまだ不思議なことがいっぱいである。
「細かいことを気にしちゃダメよ」
断じて細かいことではないのだが。
この家の住人にかかったら、どんなことでも『細かいこと』で済まされてしまうらしい。
「用件はそれだけ?」
「一応」
ぷ○ぷ○に強くなる方法を聞くためだけに、妹の部屋に押しかけるその精神。
理解不能としか言いようがない。…ただ、能天気なだけなのかもしれない。
「アニキも暇人ね」
「…ほっとけ」
…とはいえ、兄の相手をしている鈴凛も、兄と同レベルの暇人にしか見えない。
「邪魔して悪かった」
「気にしなくていいわよ。後で、実験体にさえなってくれればね」
「…あはは…考えとくよ」
鈴凛の血も涙もない悪魔のような発言に、多大なる身の危険を感じながら、兄は、鈴凛の部屋をあとにした。



「鈴凛がダメとなると、次は…」
…まだ、諦めないつもりらしい。
普段は、軟弱極まりない兄なのだが、妙なところで頑固だったりする。
おそらく、ぷ○ぷ○で千影に勝てるまで、この状況は続くのだろう。



「…なぁ、四葉?」
「…な、なんデスか?」
どうやら、鈴凛の次は、四葉に頼むことにしたらしい。
「名探偵なら、こんなゲームは簡単なんだよな?」
「そ、そのとうりデス」
四葉のほうも、『名探偵には、こんなゲームはイージーなのデス』と言って、兄の申し出をこころよく引き受けた。…のは良かったのだが。
「…なら、『この状況』は何だ?」
ここまでの兄と四葉の対戦成績は、10勝0敗と、兄の圧勝だった。…しかも、ハンデ付きで。
こう見えても兄は、ぷ○ぷ○に関しては、油断すれば素人にすら負けてしまうほどの腕前である。
その兄に、ハンデ付きで10連敗もしたのだから、それがどれほどすごいことかは、用意にご想像頂けることだろう。
兄としても、まさか、四葉がこれほどまでに弱いとは思っていなかった。
思っていなかっただけに、余計にショックが大きかった。
「…き、今日は調子が悪かったのデス」
…悲しくも、兄にボロ負けしてしまったこの状況では、何を言っても強がりや負け惜しみにしか聞こえない。
「…ごめんな、四葉」
「…チェキ」
…ああ素晴らしき兄妹愛。
2人は、無言で抱きあ…ったりはしなかったが、2人の間には、より深い絆が作られたような気がした。

…その絆が、ぷ○ぷ○によって作られたのかと思うと、拍子抜けしてしまいそうだが。




数日後。
性懲りもなく千影に挑み、見事に完膚なきまでに打ちのめされてしまった兄の姿があったとかなかったとか。

終わり



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