植物人間
エピローグ



シャドウとの戦いから数年後。
とある墓地のとある墓石の前に、一人の少女の姿があった。
「今年も来たよ、兄くん」
成長した千影が、蛍の墓石に向かって話しかける。
「あの時のこの日も、綺麗な晴れ空だったね」
シャドウとの戦いの終わった最期の日を、千影は思い出す。
あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。
「あの時は、まだ私も幼かったから、しばらくは悲しみが消えなかったよ」
あの日から数年千影は、急に悲しくなり泣いてしまうことがあった。
それだけ、蛍の存在は、千影の中で大きかった。
「どれだけ時間が経っても、兄くんが私の中から消えることはなかった」
今ではもう泣くことはなくなったものの、まだ悲しみが完全に癒えたわけではない。
いや、悲しみが完全に消え去ることは、永久にないだろう。
「他の子達も皆成長して、自分の道を歩んでいるよ。私も……」
そこまで言って、千影は言葉を切った。
そして、しばらく間をおいて言った。
「私は魔界に帰ることにするよ。帰って、来世の準備をするんだ」
千影は、何度となく兄と結ばれない世界を生きてきた。
今回も、そんな世界の一部を体験したに過ぎない。
来世ではきっと結ばれると信じて、千影はまた旅に出る。
「じゃあね、兄くん。また来世」
そう言って千影は、蛍の墓石の前から立ち去っていく。
たくさんの悲しみをその身に背負って。



”どうか来世こそは、兄くんと結ばれますように。”


終わり



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