「今日も兄チャマを1日中チェキしちゃうデス」
心の底から抱きしめたくなるような甘い声で、いつもの(かどうかは知らないが)決めゼリフを言い放つ四葉。
この少女を天使と呼ばずして、誰を天使と呼ぼうか。そう思えるほどに可愛い。
…褒めすぎだろ、とかの反論却下。「喜んで!! もう、体の隅々までチェキしちゃっていいからね」
こちらも、いつもどうりの反応である。
…もっとも、この程度であれば、ただの悪ふざけで終わるのだが、プライドなど欠片ほどもない蛍の場合、そうもいかない。
…論より証拠というわけで、これ以上のことは、続きをご覧あれ。「…というか、どちらかというと僕のほうが四葉をチェキしたいな。…というわけで、すべてを僕に任せて、快楽という名の別世界へと旅を」
「調子に乗るなぁ!!」めごしっ
咲耶の見事なまでのとびげりが蛍の顔にクリーンヒットし、咲耶の華奢な足は、兄の顔面に綺麗にめり込んだ。
…さすが格闘お…もとい、咲耶。こういう場面では、他の誰よりも、お約束をまっとうできる逸材である。「…すっごく、痛いんですけど」
顔が潰されていて、なぜ、まともに話すことができるのかは謎だが、この際、細かい理屈を気にしてはいけない。 …何でもありの兄妹だから。13人とも。
「そんなことはどうでもいいけど、一体何をしようとしていたのかしら?」
「どうでもよくな…いや、なんでもない」反論しようとした蛍だったが、怖いぐらいの咲耶の笑顔を見て、自主規制する。
…誰だって、自分の身は可愛いものである。「さっきのは、物の弾みというやつで…」
とっさに言い訳してしまう蛍。
しかし、数秒後には、自分の発言を後悔することになる。「…兄チャマ、四葉とはおアソビだったのネ」
「そんなことは絶対ない!! なんなら、今すぐにでも証明して」めりっ
クリーンヒット。咲耶の正拳突きによって、蛍は280ポイントのダメージを受けた。
…蛍の発言で泣きそうになる四葉。
泣く寸前の四葉を慰めようと我を忘れる蛍。
暴走した蛍を止めるために、蛍を半殺し…もとい、タコ殴りにする咲耶。
全体の9割以上の細胞が悪魔化した咲耶に言い訳する蛍。
そして、蛍の言い訳を聞き、泣く寸前の状態になる四葉。
…まさしく、終わりのない無限ループである。「調子に乗らないでね、お兄様☆」
「…ごめんなさい」蛍をタコ殴りにする度に、咲耶の表情に、一段と殺気が増幅していく。
…しかも、虫も殺せそうな笑顔で。…怖すぎである。「…ところで、お兄様」
「…さて、僕は用事があるから、そろそろ帰るよ」
「お願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら?」…すでに、会話などという物は成立していない。
それ以前に、自分の家にいるのに、一体どこに帰るというのだろうか。
…だが、幸か不幸か、周りにいる(といっても、この場にいるのは、蛍と咲耶と四葉だけなのだが)誰もが、咲耶の動向に細心の注意を払っているため、蛍の発言を注意しようとはしない。「また明日ね、咲耶」
「聞いてくれるのね? やっぱり、私のお兄様だわ☆」
…兄が兄なら、妹も妹といったところだろうか。相手の話など、全く聞きもしない。
「…いや、僕は何も言ってないんだけど」
「大丈夫、お兄様に拒否権はないから☆」
「…………」…もう、あえて何も言うまい。
「四葉、助けて…くれ…って、あれ?」
これから起こることを想像し、四葉に助けを求める蛍だったが、すでに、四葉の姿は綺麗さっぱり消え去っていた。
…巻き添えを受けるのはごめんだと判断してのことだろう。「残念☆ 四葉ちゃんは急用ができちゃったみたいね」
「…逃げたな、四葉」
…わざわざ確認するまでもない。四葉が逃げたという事実は、火を見るより明らかだった。
「…というわけで、お兄様はこれから、『72時間耐久・死ぬほうがよっぽど楽だと思える旅』を体験してください☆」
「大げさに言ってるけど、実際は、ただのウィンドウショッピング」みしっ
咲耶の渾身のみぞおち攻撃。蛍の精神に大きな衝撃を与えた。
「…ネタばれ禁止よ、お兄様☆」
「…すいません」…一体、いつになったら、話が先へ進むのだろうか。
「うふふ、明日を楽しみにしててね、お兄様☆」
不自然なほどの笑顔が、余計に恐怖を引き立てる要因となっている。…本人に、自覚は全くないが。
怖いくらいの笑顔で放った死の宣告だけでも、蛍を恐怖させるには十分だったが、続け様に放った追い討ち発言によって、蛍の恐怖は頂点に達してしまう。「逃げることは不可能です☆」
それだけ言うと咲耶は、満足げに、蛍の家をあとにした。
…どうやら、蛍に拒否権というものはないらしい。
「…旅にでも出ようかな?」
終わり
もどりますか?